ウツボ 求愛。 ウツボ

ウツボ

ウツボ 求愛

声を辿ってほぼ直角に頭を上げると、木の枝の隙間から予想通りの顔が楽しそうな笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。 「ジェイドもアズールも忙しいって、どっか行っちゃってさぁ」 がさりと目の前の木が大きく揺れた後、その大きな身体からは考えられないほど滑らかに、するりとフロイド先輩が落ちてくる。 「退屈してたんだ~」 こちらの首の角度は変わらないのに、さっきまではあんなに遠くにあったはずの笑顔がぐぐいと顔を覗き込んでくる。 にこにこにこにこと、こんなにも朗らかに見えるのに。 「でも、小エビちゃんが遊んでくれるから、もう退屈じゃないね?」 否定の余地のない問いかけと共に向けられた視線に、ぞぞ、と悪寒が背筋を走る。 捕食者に見つかった獲物のように、本能的に身体が逃げようとするのを何とか押さえつけた。 恐怖に負けて視線を逸らしたら、逃げ出したらどうなるのかはすでに身を以て知っている。 もちろん、絞められるか、絞められるか、絞められるか。 そもそも、あのフロイド先輩から逃げ切れる可能性など無きに等しい。 無駄に足搔いて、万が一、フロイド先輩の気分を著しく損ねる対応をしてしまった挙句の絞めは、本当に、本当に、シャレにならない。 逆に機嫌さえ良ければ、まあ、少し、若干、大分傍若無人ではあるが良い先輩でもあるので、こういう時は逆らわずに提案に乗るのが得策である。 事の方が多い。 早々に諦めの境地に片足を突っ込みながら、朗らかなのに不穏という、ある意味器用な笑顔をまじまじと見返す。 「あ」 「んー? 小エビちゃんどーしたの?」 自分のあげた間の抜けた声に首を傾げるフロイド先輩の髪がさらりと揺れる。 日に透けるその綺麗な青い髪の上には、いくつものピンク色の花びらが張り付いていた。 「先輩の髪の毛に花びらがたくさんくっついてます」 変なところでお昼寝するからですよ、と付けくわえながら右手を伸ばし、前髪に付いた花びらを一枚、二枚と摘み取っていく。 が、本当にどうやって寝たらそうなるのか、フロイド先輩の頭を飾る花びらは全く減った様子がない。 「くっ」 背伸びをして、もう少し上にある花びらを摘まんで離し、さらに上にある花びらに手を伸ばす。 「う、ぐぅ」 届きそうで、届かない。 本であればジャンプして取るところだが、今目の前に立ちはだかる相手はフロイド先輩。 もしも勢い余って髪の毛の一本でも引っこ抜いてしまったらどうなることか。 さすがに、こんなことで命を懸けたくはない。 「あの、届かないので、少し屈んでもらっても良いですか?」 まだまだ頭に花びらをくっつけている当の本人は、こちらの奮闘などそっちのけで、高いところから、じーっと人のことを観察している。 というか、どちらかというと。 「えー伸びてる小エビちゃんが面白ぇからぁ、ヤダ」 にこーと音がしそうな笑みと共に、何とも脱力する言葉を投げかけられる。 誰のためにやっていると思っているのか。 「やだと言われましても……。 それじゃあ花びら取れませんよ」 「小エビちゃんがぁ、もっと頑張って伸びたらいいじゃん?」 このウツボの先輩は人間の伸縮性にどれだけ期待をかけているのか。 まあ自分よりも数十倍は頭の良いフロイド先輩は、それが無茶振りである事を十中八九わかって言っているはずで。 結局のところ、これはただニヤニヤ笑いながら人が困っているところを楽しみたいだけだろう。 いや本当に性質が悪い。 おそらく顔にも滲みでてるだろう呆れの感情のまま、一つ息を吐く。 さてどう対応すべきか、と一瞬悩んで、少々投げやり気味に腹をくくることにした。 「じゃあ、おしまいにします」 ぱちんと一つ胸の前で手を叩いて、あえてにっこりと笑顔を浮かべる。 すでに諦めの境地には片足を突っ込んでいるのだ。 先の見えないリスクに怯えるよりも、早々に少しばかり機嫌を悪くしてもらって、さっさと飽きてもらうことに決めた。 「え、なんで」 意外だ、心外だとばかりに頬を膨らませてくるが、今回はその可愛いくも見える仕草に懐柔される気はない。 その結果は身をもって知っているし、如何せん一庶民のストレス限界値はそれほど高くないのだ。 それに、このくらいの拗ね方であれば、死ぬほど絞められることはないはずだ。 ある程度予想通りの反応に、心の中でそっと拳を握る。 にっこりとした笑顔はそのままに、畳みかけるように口を開いた。 「人間はこれ以上伸びられませんし、魔力の無い私は飛ぶこともできませんから。 無理をして、フロイド先輩に痛い思いをさせてしまっても嫌ですし」 「ええー!」 「そもそも、つい手を出してしまいましたが、花びらぐらい先輩は自分で払えるでしょう?」 その方がずっと早く、キレイにとれますよ。 と言って、そろりと一歩後ろに下がる。 ここで焦りは禁物。 笑顔のキープは忘れずに、視線は逸らさない。 あくまでも穏やかに世間話を終わらせる軽さで、更に一歩下がる。 では、失礼します。 と、最後の一言を口に乗せる直前に、フロイド先輩の長い長い腕が顔の両側を通り過ぎた。 同時にずしりと両肩が重くなる。 状況をはっきりと把握する前に、ぐい、と身体がフロイド先輩の方へ引き寄せられた。 ばふっという音が耳に届いた後、顔には触り覚えのある固い生地の感触。 あれ、と思いながら首をまた直角に上げる。 数度の瞬きの後、どこかぼんやりとした視線の先で、にっこりと笑うフロイド先輩の口が動いた。 「やだ。 小エビちゃんがやって」 「え、え。 でも」 「やって」 「いや、自分で、」 やったほうが良いですよ。 というささやかな反論は、長く低く吐き出されたフロイド先輩のため息にかき消された。 「オレはぁ、小エビちゃんがやって、って言ってるんだけど?」 口の形は、まだ、笑っている。 けれど、フロイド先輩の目が、きらきらと灰色と金色に光る二つの瞳が、きゅうと縮んで、ひと際強くぎらりと光った。 あ、怒る ドクッと一度心臓が大きく鳴って、そのまま危険を知らせる警報のように速度を速める。 考えるより先に口が動いた。 「私がやります!」 「あはっ、やったー。 と心底嬉しそうな声で礼を告げられる。 あの威圧的な視線もあっという間にその笑顔に隠れてしまった。 あの一瞬で強張った身体から、ゆっくりと力が抜けていく。 大げさにならないように気を付けながら、肺に詰まった息を吐いた。 目の前では先ほどの出来事は夢だったのかと思うほど、ひどく上機嫌になったフロイド先輩がふふふと楽しそうな笑い声を出している。 この雰囲気ならば大丈夫だろうと判断して、それでも様子を伺うように丁寧に言葉を選んで口を開く。 やると口にした以上もう逃げる気はないが、さすがにさっきのような人間の伸縮性の限界を明らかにするだけの不毛なやりとりを繰り返したくない。 「あの、ただ、その。 本当に痛くしたら申し訳ないですし、ちゃんと取りたいので、そこに座って貰えないです、か……?」 「うんうん、小エビちゃんがそこまでお願いするならいいよー? 伸びてる小エビちゃんも面白かったけど、オレが小エビちゃんを見上げんのも面白いかもしんないしねぇ」 余程ご機嫌が一気に回復したのか、今度は思いの外すんなりとこちらの提案を飲んでくれたフロイド先輩は、私の身体に腕を絡めたまま、すとんと地面に腰を下ろした。 「え」 「はい、どーぞ」 どうぞ、と言われましても。 素直に座ってくれたのは確かに大変ありがたい。 だがしかし、肩に回されていた腕もそのまま下がって、腰にぐるりと巻き付いているし、なによりフロイド先輩のおでこが。 おでこが、お腹にぴったりくっついている。 引き寄せられた時から近すぎでは、と薄々感じていたが、これはまた少しばかり次元の違う近さな気がする。 「えっ、こ、このまま、ですか?!」 「うん、どーぞ?」 何て事の無い声色で、当然のように返される。 「えぇ?」 動揺している自分が可笑しいのか、と思いかけた自分の思考を慌てて否定する。 どう考えても可笑しいくらい近い。 だってお腹と背中が明らかに自分と違う温度を感じてぽかぽかとしている。 じんわりと広がる熱が身体を巡って、なんだが顔まで熱くなっている気がする。 「ねーまだぁ? オレ、ちゃんと座ってあげたんだけどぉ?」 「す、すみません。 やります!」 若干苛立ちが混じり始めた声に急き立てられて、慌てて目の前に差し出された頭に視線を戻す。 ゆらゆらと木漏れ日が当たっている綺麗な髪にそっと手を伸ばした。 一枚、また一枚と艶やかな髪にくっついた花びらを摘まみながら、普段のフロイド先輩とジェイド先輩との距離感を考えれば、確かに、この程度の距離はフロイド先輩にとっては普通かもしれない、ということに思い至り。 最終的にはフロイド先輩だから。 という魔法の言葉で、未だに動揺している自分をなんとか納得させる。 フロイド先輩が顔をお腹に埋めてくれていて、かえって良かったかもしれない。 おそらく、あまり人様には見せられない顔になっていた気がする。 少しずつ、少しずつ、フロイド先輩の頭から花びらがとれていく。 くっつくどころか細い髪に絡みついてしまっている花びらは、痛くないように細心の注意を払いながら、髪を梳くように指先を柔らかな髪に滑らせて落としていく。 「フロイド先輩、痛くないですか?」 「んー。 フロイド先輩は自身を全く取り繕わない。 だからこそ、告げられる言葉も本心であるとはっきりと分かる。 もう飽きてイライラしてしまってないか心配したが、杞憂だったようだ。 あの気分屋のフロイド先輩がこんなに長い時間無防備に頭を預けてくれて、しかも気持ちよさそうにリラックスしてくれているのだと思うと、何だか少し特別に気を許してもらえた気がして、胸の奥がぼんやりと温かくなってくる。 「ふふ、良かったです。 もう少しで終わるので、もうちょっと待ってくださいね」 「んんー!」 擽ったく温かい気持ちのまま自分でも自覚するほど柔らかく発された言葉は、けれど何故かひどく不満そうな声音で返された。 ぎゅうと急に腕の締め付けがきつくなったかと思うと、フロイド先輩のおでこがぐりぐりとお腹に擦りつけられる。 「わっ、ど、どうしたんですか、い、痛くしちゃいましたか?」 「んー」 飽きたのか、止めて欲しいのか、何を聞いても、「んー」としか返ってこない。 なのに、おでこをぐりぐりとお腹に擦りつけるのは止めてくれない。 幸い、今ところ腕の締め付けはそこまできつくないが、この不可解な行動の原因がわからない以上、一秒後もそうである保証はない。 少しでも状況を把握するため、怖さを飲み込んで何とか口を動かす。 「あの、動いたら取れませんし、そんなに擦りつけたら先輩の髪がぐちゃぐちゃに、」 なる、と言う前にさらに腕の締め付けがきつくなった。 ひゅ、と喉から息が抜けて、また心臓が煩く鳴り始める。 瞼をきつく閉じて、この後来るであろう痛みに備える。 が、覚悟していたような内臓を絞られる痛みは、いくら待っても来なかった。 恐々と瞼を開けると、こちらを見上げるフロイド先輩と目が合った。 意外にも不機嫌そうな様子は微塵も無く、どちらかというとぼんやりと熱に浮かされているような、とろりとした目の色をしているように見えた。 初めて見たそのあまりに綺麗な色に目を奪われて、二度、三度、ゆっくりと瞬きをした所でようやく我に返る。 覚めた目でもう一度まじまじとフロイド先輩を見まわしてみれば、案の定、お腹にかなり強くおでこを擦りつけたせいで、せっかくの綺麗な髪はぐちゃぐちゃになっている。 その遠慮のない髪の乱れっぷりがあまりに見事で、先ほどまでの良く分からない感情はすっかり心の奥に引っ込み、代わりに幼い子の可愛らしい悪戯を目にした時のような微笑ましさが胸に湧いて、自然と口元に笑いが浮かんだ。 「ほら、やっぱりぐちゃぐちゃになっちゃってますよ」 髪の間に指を差し入れて、するりと毛先まで通す。 余計に絡まないようにゆっくりと。 繰り返し繰り返し。 密かにその柔らかな感触を楽しみながら、その艶やかな髪の間に指先を滑らせていく。 ついでにまだ後ろの方に残っていた花びらも丁寧に取り除いて、仕上げとばかりに、美しい曲線を描く後頭部を何度か優しく撫でつける。 最後に色の違う前髪の部分をきっちりと整えて、うん、綺麗になった、と満足して手を放そうとした瞬間に、何か温かい感触が指先を包んだ。 湿った温度が指の形をなぞる。 ぬるりとした感触が指から腕、神経から脳に届いた瞬間、痺れるような感覚が全身に広がり、身体が一気に熱くなった。 次いで、ちくり、とした痛みが指先をつつく。 何度も、何度も、繰り返し。 与えられているのは痛みの筈なのに、まるであやされているような、あまりに優しい感触に熱い息が口から洩れた。 どれ程の時間が経ったのか。 始まりと同じように唐突にそれは終わった。 ちゅ、という軽いリップ音と共に漸く解放された自分の指先を呆然と見つめる。 「やっぱり、すげぇきもちー。 小エビちゃんすげぇね」 ひどく満足そうな声が鼓膜を揺らした。 ゆっくりと、指先からその声の発生源へ顔を動かす。 だが想像していたような、にやにやと人を揶揄うような笑みはなかった。 うっすらと上気した頬に、湿った吐息、潤んだようにも見える瞳。 ともすれば、うっとりとしたとか、恍惚としたとか、そんな形容詞が付くのではないかという表情が浮かんでいた。 薄い唇の隙間からはギザギザとした特徴的な歯が見えた。 あそこに自分の指が入って、あの歯が、私の指を、噛んでいたのだ、と、意識した瞬間に顔が燃えるように熱くなった。 頭が煮立ったようにぐらぐらする。 目に熱がこもって涙が滲む。 「ぜ、んぶ! とれたので! 今日は、終わり! です!」 勢いを付けないと、声すら碌に出せない気がした。 無駄なこととわかっていても、こんなにも動揺していることを少しでも知られたくなくて、声を張って何とか誤魔化す。 いつもであれば、こんな大きな声を出せば煩そうに顔を顰めるはずなのに、フロイド先輩は随分とご機嫌そうな笑顔のままで、ゆっくりと立ち上がった。 「あはっ、うんうん、小エビちゃん今日はありがと。 またやろうねぇ」 また、とは何か。 自分はフロイド先輩の頭に付いていた花びらをとってあげただけであって、それはまたやるとか、そういう類のものでは無いはずだ。 言い返したい言葉は山ほど頭の中をぐるぐると回っている。 だがそれ以上に、いたたまれない。 ここに居たくない。 ここから逃げ出してしまいたかった。 「では! 失礼します!」 ぐるりと踵を返して、勢いよく一歩を踏み出す。 二歩目を踏み出そうとして、ぐい、と右手をフロイド先輩に掴まれた。 当然の如く、悲しいくらいの力の差。 どれほど足が逃げたがっても、振りほどくことなど出来るはずもない。 僅かに逡巡した後、観念してちらりと後ろを振り返った。 それを待っていたかのように色の違う両の瞳がじぃっとこちらを見下ろしながら、ゆっくりと細くなっていく。 やっぱり、朗らかだけどどこまでも不穏な笑顔が、耳元にそっと寄せられた。 「オレ今度は海でやりたいなぁ。 その時は、アズールに頼んで、小エビちゃんも人魚にしてもらおうね?」 吐息が鼓膜を柔らかく揺らす。 熱さも動揺も何もかもがはじけ飛んで、思考が真っ白になった。 何を言われたのかもまともに理解できないまま、反射的に口が反論を吐き出そうとして、でも何一つまともに言葉に出来ずに、ただ唇がパクパクと開け閉めを繰り返す。 そんな自分を愉快そうに眺めながら、こちらを揶揄うようにフロイド先輩も大きく口を開けて、閉じた。 最後に一つ満足そうに笑みを深めると、ようやく捕まえていた右腕を離してくれる。 「あー! そろそろラウンジ行かねぇとアズールに怒られるー。 じゃあ、小エビちゃん、またね~」 そう軽く告げて、散々こちらに爆弾を落としていったフロイド先輩は、ゆらゆらとやる気なく手を振るとあっという間に廊下の向こうへ消えていった。 その姿を呆然と見届けた後、ぽすりと地面に腰を落とす。 「いったい、なんだったの」 フロイド先輩の言動も、自分の今の状況も、未だに何一つわからないまま、熱の冷めない身体と鳴り止まない心臓を宥めるように、手のひらを強く胸に押し当てた。

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ウツボ

ウツボ 求愛

ウナギ目ウツボ科に分類される海水魚の総称です。 名前の由来には諸説あり、「ゆぎ」もしくは「うつお」という矢を入れて肩や腰にかける筒に似ているからというものや、岩の陰に隠れる習性があるため空洞を意味する古語「うつほら」から転じたというものがあります。 生息地は、熱帯や温帯の地域。 日本では九州の南端から台湾あたりまで続く南西諸島で多く見られます。 「海水域」にあるサンゴ礁や岩礁の割れ目などで想い暮らしていますが、海水と淡水が混ざり合う「汽水域」や「淡水域」に入ってくることもあります。 また皮膚呼吸ができるため、湿った場所であれば30分ほどは陸上にとどまることもできるそう。 体つきは、やや平たく細長い円筒形をしていて、体長は20cmくらいのものから4mを超えるものまでさまざま。 生息環境にあわせた地味な色をしているものが多いですが、その一方で南国特有の派手な色で目立つ種類や、細かい柄の紋様をもつ種もいます。 最大の特徴は、他のウナギ目の魚と同じく腹びれや胸びれが退化している点です。 背びれや尾びれが体の大半におよぶ「ウツボ亜科」や、尾びれしかない「キカイウツボ亜科」に分けることができます。 肉食性で、魚類や甲殻類、頭足類などを好んで食べます。 特にタコが大好物で、タコが好きなイセエビの近くにいて、寄ってきたところを捕食するそうです。 ウツボにとってイセエビは餌をおびき寄せてくれる良き隣人、反対にイセエビにとってウツボはボディーガードのような存在です。 これは「相利共生(そうりきょうせい)」といい、互いが生き延びていくための知恵だといえるでしょう。 その他、皮膚の表面や口の中に寄生する虫を掃除してくれるオトヒメエビやアカシマシラヒゲエビ、ホンソメワケベラなどとも相利共生の関係にあり、彼らに対して危害を加えることはありません。 全世界には約200種類が生息しているといわれています。 ここでは日本近海に生息するもののなかから、代表的なものをご紹介しましょう。 ウツボ(Kidako moray) 日本でもっともポピュラーな種類です。 体長は80cmほどで、全身は黒褐色と黄色のまだら模様に覆われています。 食用にされることもあり、水揚げされる地域では「マウツボ」や「ホンウツボ」と呼ばれるそう。 他にも東京では「ナマダ」、和歌山では「ヘンビ」、愛媛では「ヒダコ」という呼び方があります。 ナミダカワウツボ 30cmほどの小型種です。 主にインド太平洋の熱帯域に生息していますが、日本では西表島で見ることができます。 環境省のレッドリストで絶滅危惧種に分類される、大変貴重な種類です。 ドクウツボ 3mもある大型種で、その名のとおり筋肉や内臓に毒をもちます。 熱帯の海に生息するプランクトンが生成する毒素が原因で「シガテラ」という消化器系や神経系の中毒症状を引き起こすそう。 熱しても毒性は消えないので注意が必要です。 オナガウツボ 体長が4m近い固体も発見されている最大の種類です。 インド太平洋の熱帯域、日本では沖縄周辺に生息しています。 ウツボの歯はとても危険! もともと臆病な生き物ですが、身の危険を感じるとその鋭い歯で容赦なく襲い掛かってきます。 目の後方にまで達する大きな口には、上下に鋭い歯が生えていて、大きいと1cmほどにもなり、釣り針の先のように奥の方に向かって生えているので噛みつかれるとすぐには抜くことができません。 顎の力も強力です。 噛まれた場合、ひどいと傷口を縫う必要があったり、食いちぎられたりする場合があります。 ウツボが隠れているのは、岩の影や穴の中。 そのような場所にはむやみに手を入れないのはもちろんのこと、不用意に岩に手をかけることも危険です。 もしも目の前に現れたら、慌てずにゆっくりとその場から離れましょう。 釣りをしていると針にかかることがありますが、その場合は暴れているのを無理に外そうとせず、糸ごと切ってしまうのが安全です。 また、釣った魚を岩場でさばいていると、匂いを嗅ぎつけて水から揚がってくることもあるそう。 安全な場所に移動してから作業をするようにしましょう。 ウツボは食べられる!意外とおいしい料理や味を紹介.

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うつぼ

ウツボ 求愛

「ねえ、また来たよ小エビちゃん、何してんのー?俺と遊ぼ?今日は何して遊ぼっか?」 そんな声が背後から聞こえた瞬間、今日もまた巨大な体躯が私の行く手を塞いだ。 またか。 ここの所毎日のように、行く先々で同じ人物に絡まれている。 私の行く手を塞ぐのは、容姿も中身も個性的かつ、優秀な人材が入学を許可されるこのナイトレイヴンカレッジでも一際目立つ長身。 相手が誰かなんて改めて確認するまでもない。 オクタヴィネル寮に所属している事を示す制服に身を包み、先ほども言ったがこの長身。 該当する人物は2名。 そう、双子のリーチ兄弟だ。 しかし私の事を「小エビちゃん」なんて不思議なアダ名で呼ぶのはあの人しかいない。 リーチ兄弟の片割れ。 リーチ兄弟のヤバい方なんて言う人もいる。 私としてはもう一人の片割れだって、あの敬語が妙な迫力を生み出しているので十分ヤバいと思うのだが まあ確かに、目の前にいるこの人物は極度の気分屋で、何を考えているかよく分からず、キレたら怖いお兄さんなのは確かだ。 私の目の前に立ち塞がる人物は、フロイド・リーチ。 人物というには語弊があるのだろうか。 彼と双子ジェイドはウツボの人魚で、水中で、彼らの本当の姿に追いかけ回された一件は忘れたくても忘れられない体験だ。 「あ、フロイド先輩こんにちは。 今日は... 放課後はモストロ・ラウンジの方はいいんですか?」 そう言って改めてフロイド先輩に向き直る。 彼の顔を見るのには見上げなくてはならないので首が痛くなってしまうのが難点だ。 向き直った彼は、ニコニコと至極ご機嫌な表情をしている。 ひとまず助かった。 ここで彼が不機嫌になってしまうと後が大変なのである。 依然として、私の進路を邪魔するように立ち塞がったままであるフロイド先輩の機嫌を損ねないように、それとなく彼の提案を躱してみる。 私なりに、遠回しではあるが「今からモストロ・ラウンジの手伝いがあるでしょうから私に構わないでください」と伝えたつもりなのだが、マイペースな彼はその提案をスルーした。 「えー、ジェイドがいるから大丈夫でしょ。 それよりも、小エビちゃんと遊ぶほうが断然楽しいし、小エビちゃん何処にいるかなぁって探してたんだぁ」 そう言ってまた一歩、私の方に距離を詰めてくる。 さり気無く彼との距離を取ろうと動いてみるが、スルリと上手いこと私との距離を詰めてくるのがフロイド先輩の凄いところである。 さすがはウツボの人魚、ということだろう。 「ねぇねぇ小エビちゃんは、こんな所で何してんの?珍しくアザラシちゃんも居ないじゃん。 」 そう言ってまたスルリとこちらに近付いてきて、私の腰に手を回した。 そう、最近私へのスキンシップが過剰なのである。 フロイド先輩のことだから恐らくはそういう気分なだけなのだろうが、長身で整った容姿の彼が近付いて来るだけで妙な迫力があるのに、手を回されて、優しく撫で付けられることもしばしば。 そんな事がある度に妙に意識してドキドキしてしまう。 目の前の人物にそんなつもりはないだろうけれど「なぁに小エビちゃん、照れてんの?あは、可愛い〜!」なんて耳元で囁くので私の心臓は忙しく働いてしまうのだ。 フロイド先輩は気分で私をからかっているだけ、と言い聞かせて意識しないようにすればする程に彼のスキンシップも増えていくのでどうしたものか、というのが最近の悩みである。 いつもよく一緒に行動しているグリムやエースやデュースにしても「気に入られたみたいだな、ご愁傷様」とこの件には触れず触らずを貫いている。 彼らにとっても海の中でウツボの人魚に追いかけ回された一件がトラウマになっているようだ。 今日も今日とて腰に手を回し、スルリと優しい手付きで撫で上げるフロイド先輩の行為に私の心臓が忙しなく動き始めてしまった。 顔に熱が行く前に何とかしなければ。 ごそごそと身動いで、腰に回された手を何とか離そうとする動きに気づいたのか「小エビちゃんあんまり動くとギュッと締めちゃうよ?」と耳元で楽しげに囁くので私はピタリ動くのをやめた。 機嫌を損ねたフロイドにギュッと締められるのは、それだけは避けたい。 動くのをやめた私に機嫌が良さそうな声色でフロイドが言葉を続ける。 「あは、いい子じゃん。 で、何で一人でうろついてんの?」 何事もなかったかのように話を戻す様子に嘆息する。 気持ちを切り替えると私も何事もなかったかのように会話を続けた。 「グリムがまたエースと口喧嘩したみたいで、魔法を使って教室をボロボロにしたんです...。 で、今二人はクルーウェル先生の所で罰を受けてます。 本来なら監督不行き届きで私も一緒だったんですけど、今回はクルーウェル先生もその状況を見てらして、必死に止めてたけど二人が言う事を聞かなかったって事で、私はお咎めなしです。 デュースは用があるらしくて。 」 自分から尋ねてきた割には「へぇ〜」と割とどうでも良さそうな返事を返してくるあたりがまさに気分屋である。 「そっかぁそれで一人なんだぁ... まぁ、俺としてはその方が都合がいいんだけど。 」 ぼそりと何か呟かれたが、こんなにも距離が近いのに聞き取る事が出来なかった。 オンオフの激しいこの先輩は時こうしてぼそりと何か言う事がある。 そういう時の言葉は大概不穏な発言なので深く突っ込まいないことが身のためだろう。 しかし何もやる事がなくてフラフラと一人校内歩いていたわけではないのだ。 いつもならフロイドが飽きるまでお喋りだったり、昼寝だったりに付き合うこともある むしろ毎日フロイドが付き纏うので毎日の日課のようになってしまっている のだが、この後私にはちゃんとした予定があるのだ。 恐る恐る様子を窺うようにしてフロイド先輩に言った。 「あのフロイド先輩... 私これから図書館でジャックと今日の授業の復習する予定で... その、今日は先輩にお付き合いする事が出来ないんですけど... っひ!」 そう言った瞬間、フロイド先輩は腰に回していた手に力を込めてグイッと自身に私を引き寄せた。 近かった距離が更に縮まってしまい、落ち着いていた心臓が一気に仕事に取り掛かる。 そしてフロイド先輩は一層顔を近づけて、今までで一番纏わりつくような手付きで背中を撫で上げる。 は?なぁそれわざと俺を煽るような事言ってんの?せっかく今日は他のオスの匂いも気配も無いから最高に気分良かったのにさぁ」 そう言いながらスリっと、私の頬に自身の頭を擦り寄せた。 視界が水色の鮮やかな髪の色で一杯になる。 状況についていく事が出来ず、ただ心臓を高鳴らせて固まったままの私にフロイド先輩は言葉を続けた。 「こんなに優しくしてんじゃん。 前まで小エビちゃんさぁ、俺らを見るといつもビクってエビ見たいに跳ねてたから、面白いけど怖がらせないようにって。 なのに俺を置いて他のオスのところに行くなんて言うの?」 声は酷く優しいのに、有無を言わせない迫力あって何をどう答えていいのかわからない。 しかし彼の言葉をどうにか脳内で咀嚼すると、なんだかまるで嫉妬しているかのようで、それを意識した瞬間顔に熱が集まる感覚がした。 え、あの、フロイド先輩?その、」 しどろもどろになっているとゆったりと顔を上げたフロイド先輩が熱っぽい視線で私を見つめた。 そっと私の手を取ってその指先を彼の口元に寄せる。 あ、まずいこれ噛まれるやつだ、と反射的に目を瞑る。 以前フロイド先輩がそういう気分だったらしくガブリと指を噛まれた事がある。 ウツボらしく尖った歯が痛かった覚えもあり、チクリという痛みが走るのを覚悟した。 覚悟したのにもかかわらず、痛みが走るどころか指先にはやわやわと生温かい感触が走った。 一体何事かと思って恐る恐る瞑っていた目を開くと、至近距離で私の指先を甘噛みするフロイド先輩がいる。 しかもどういうわけか、ギザギザと鋭い歯に触れないようにしてくれているらしい。 熱っぽい視線はそのままに、甘噛みをやめたフロイド先輩が囁く。 「ねぇ俺こんなに毎日アピールしてんのに何で無視すんの?俺のこと試してるの?... 早く俺のものになれよ」 そう言って更に甘噛みを続けるフロイド先輩に、背後から声がかかった。 「フロイド、熱烈なのは結構ですがアズールがカンカンですよ。 早くモストロ・ラウンジに来なさい。 」 いつの間にか近くにいたらしいリーチ兄弟の片割れ、ジェイド・リーチがフロイド先輩に声をかける。 ジェイド先輩は本当に気配を消すのが上手い。 一瞬びっくりしたが、今は天の助けに思えた。 今ならどんな見返りを求められてもいい気がしてしまう。 ジェイド先輩にこんな状況を見られるという恥ずかしさもあったが、何はともあれ助かった。 こんな状態のフロイド先輩を止められるとしたらジェイド先輩しかいないだろう。 「フロイド、聞いていますか?」と声をかけるジェイド先輩に、フロイド先輩は気分が下がったのか喧嘩腰である。 「いくらジェイドでも今邪魔すんなら許さねーけど、」 その言葉を聞いたジェイド先輩ははあ、と溜息を漏らすとフロイド先輩の背後に立って、私にしか見えないように口を動かした。 必死に目を凝らして見てみると、口パクと身振り手振りで「手で、フロイドの頬や頭を撫でなさい」と言っている。 意味は良くは分からなかったが、ここは言われるがままになるしかない。 フロイド先輩に触れられている手と反対の手で、そろりと彼の頬に触れた。 その瞬間フロイド先輩は驚いたような表情になって動きを止める。 え、何?どうしたのかと思ってちらっとジェイド先輩をみると「撫でなさい」と言っているので、これまた言われた通りにする。 スルリと羨ましいくらいすべすべの肌を撫で、その後そっと彼の髪に触れた。 髪の流れを逆立てないようにそっと撫でるごとに、目の前のフロイド先輩はこれ以上ない程に嬉しそうな表情になる。 本当に、何が起こっているの分からず、またちらっとジェイド先輩を見る。 ジェイド先輩はホッとしたような顔で「顔を少し近づけて、もう一度頬を撫でて」と言ってくるので言われた通りにする。 するとフロイド先輩もお返しとばかりに顔を近づけて、ご機嫌な表情で私の頬や背中を撫で上げた。 「小エビちゃん、やっぱり俺を試してたのかぁ... けど俺に応えてくれたもんね、あんまり焦らすからギュッってしちゃうところだったよ?」 そう耳元で囁く声があまりにも甘い声色なので、一気に顔に熱が集まる。 「あは、金魚ちゃんみたい。 今日はもう、アズールが呼んでるから戻らなきゃいけないけど、また小エビちゃんのとこに来るから... 待ってて?」 そう言って機嫌の良いままに、やっと身体が解放される。 「じゃぁジェイド、俺先に行ってるー」と何事もなかったかのようにフロイド先輩はその場を去った。 訳も分からず、その場に残ったジェイド先輩に一体何が起きていたのかと尋ねた。 「ああ、あれですか?フロイドの一連の行動、最近やけに貴方に擦り寄ったり身体を巻き付けたりしていたでしょう?あれはウツボの求愛行動なんですよ。 」 さらりと言ってのけるジェイドに「あ、そうなんですね。 」と同じくさらりと返してしまいそうになるが、一瞬で我に帰った。 今なんて言った?求愛行動? ビシリと固まる私を興味深かそうに見やるジェイドの言葉に、私は更に固まってしまうこととなった。 「おや、やはり気付いてはいらっしゃらなかったのですね。 しかも今日は甘噛みまでされて... フロイドも熱烈ですね。 勿論あれも求愛行動の一つですよ。 」 クスクスと可笑しそうに笑うジェイドは悪びれもせずに続けた。 「先程、私が貴方にアドバイスした行為なのですが... ええ勿論あの場を収めるにはあれが最も効果的だと思ったのですよ?... 貴方がフロイドに顔を近づけて顔を撫でたでしょう?あれは求愛行動を受け入れたっていうサインの一つなんです。 」 「... は?」 間の抜けた声だなと我ながら思ったが、ジェイドの口から溢れた言葉から受けた衝撃が大きすぎてそれどころではない。 つまりは私が、フロイド先輩の求愛行動を受け入れたという事になってはいないだろうか。 「本当は雌が雄に顔を擦り付けたり、人間でいうところのキスをするんですけどフロイドは今日は、あれで満足したようですね」なんて言葉が追い打ちのように降ってくる。 ジェイド先輩なんて事をしてくれたんだ。 呆然と立ち尽くしていると「それでは私はこれで」と去ろうとしているジェイド先輩から声がかかる。 「もしかしたらご存知かも知れませんが、」 そう言ってフロイド先輩とそっくりな顔が振り返った。 ジェイド先輩を見て「フロイド先輩に似ている」なんて思う事自体が、自分がフロイド先輩をどう思っているかを示しているようなものだ。 「先程、フロイドが、また来るって言っていたでしょう?... ウツボは通い婚なんです。 自分から会いに来るという行為そのものが愛情表現なんですよ。 」 「フロイドのこと、よろしくお願いしますね。 」 そう言って楽しそうに笑うジェイド先輩が、フロイド先輩に重なってまた心臓が高鳴る。 どうしよう、困ったことになったと思う頭の片隅で、先程までのフロイド先輩の熱っぽい視線がちらつく。 困ったという感情以上に、どこか嬉しさを感じてしまっている自分に気付いてしまって、身体の熱は上がる一方だ。 一体次会う時から、どんな顔をしてフロイド先輩に会えばいいんだ... と高鳴る胸を押さえて、ひとまずその場を後にしたのだった。 [newpage] + + それにしても今日の放課後は散々だった、とオンボロ寮の自室のベッドに潜り込んで深く溜息を吐いた。 結局あの後、約束通りジャックと勉強に励もうとしたのだがフロイド先輩の言葉がチラついて全く集中できなかった。 様子が可笑しい私を見兼ねてか「おい、具合が悪いならさっさと休め」とジャックに言われ、早々に切り上げることになったのだ。 ぼすっと枕に顔を埋めて今日の一連の出来事を頭の中で思い返す。 フロイド先輩の熱っぽい視線や甘ったるい言葉、身体を撫でつける手付きと「求愛行動」という言葉が一気に脳内を巡り、思わず声にならない声をあげてしまう。 「オイ、溜息なんか吐いてどうしたんだゾ?落ち込んでるかと思ったら変な声出すし、何か変なものでも食べたンじゃないのか?」 隣で寝る体勢に入っているグリムがちらっとこちらを向いて尋ねてくる。 いや、グリムじゃあるまいし、拾い食いもしないし変なものは食べていない。 心配してくれたのは有難いが失礼なやつだ。 「いや、そういう訳じゃないんだけど、放課後フロイド先輩とちょっとね... 」 何はともあれグリムも心配してくれているし、全部話さなくても話せるところだけでもなんて思って話始めた私の口から「フロイド先輩」というワードが出た瞬間にグリムは関わることを放棄してタヌキ寝入りを始めた。 猫のくせに。 「ぶにゃー、ぶにゃー」などと言う態とらしい寝息が聞こえ始めた。 グリムめ、リーチ兄弟が関わっているとわかった瞬間に逃げたな。 ジトッとした目で暫しの間グリムを見ていたが、直ぐにそのまま寝入ってしまったようで規則正しい寝息が聞こえ始めた。 寝ているグリムは本当ににただの猫にしか見えず 本人に言うと怒るので心の中に留めておくが なんとなく癒される。 しかしながら、話し相手もいない中でボーッとしていると今日の出来事が頭に浮かぶ。 真っ先に思い浮かぶのはやはりフロイド先輩のことで。 思い浮かべるだけで顔に熱が集まり、心臓はドクドクと身体中に血液を送り始める。 あまり認めたくはないが彼への気持ちは、とうに決まっているのである。 私がフロイド先輩の事を考えるだけでこんな風になってしまうことが答えなのだ。 自分の気持ちを認めてしまえば、なんとなくそわそわしていた気持ちが少しだけ落ち着いた。 問題は、次に会うときにどう接すればいいかということだ。 ぽやっと熱に浮かされたような頭で何を考えてもいい答えは出ず「明日のことは明日考えよう!」と寝ようとした瞬間、オンボロ寮のドアベルが鳴った。 ドアベル自体はなかなかの音なのに、隣で寝るグリムが起きる気配は皆無だ。 本当にこいつは一旦寝たら起きない。 ということは、私が夜中の来訪者を迎えなければならないということでもある。 こんな時間に、誰?」 なんて言ってみるが、頭に浮かんだのはいつも連んでいるハーツラビュルの一年生コンビ。 恐らくはエースかデュースか。 うん、多分エースだ。 今日グリムとやらかした件についてハーツラビュルの寮長であるリドル先輩にこっぴどく叱られて家出したに違いない。 本当にお騒がせな奴だ。 一度そう思うとそんな気しかしないもので、自室を出て玄関に向かい「ちょっとエース今何時だと思ってるの、」と言いながらドアを開けた私は思いがけない来訪者に驚き、固まってしまった。 思いがけない、というのは私の思慮が足りなかったのだと思う。 確かに彼は「また会いに来る」と言っただけで「明日」とも「明後日」とも言っていない。 確かに次に会うのが「今日」でも全く不思議ではなかったのである。 今までの彼の行動を思えばむしろそれが自然だ。 けれど、全くもって心の準備をしていなかった私はその来訪者の顔を見るや否や「え、あ... 」などと情けない反応をすることしか出来なかった。 先程私の発した「エース」という名が面白くなかったのか、その相手がムッとした明らかに不機嫌そうな表情をしていたのも、私が情け無い反応を返した一因でもあるのだが。 え、フ、フロイド先輩?」 恐る恐る声をかけた私を鋭い瞳で一瞥した先輩が、これまた不機嫌を隠そうともしない声色で言った。 「さっき、また会いに行くって俺言ったじゃん... っていうか、出会い頭に他のオスの名前出すとかどういう事?はぁ?もう浮気?...... 俺、束縛されんのちょー嫌いだけど、ひらひら他のオスに媚び売ってんのはムカつくんだけど。 」 「... 小エビちゃんは俺のものだって、自覚持てよ。 」 そう言ってフロイド先輩はズカズカとオンボロ寮に入ると、私の腕を引いて談話室に向かう。 まるで自寮であるかのように迷わずに進んでいけるのは数週間前にこの寮が差し押さえられていたからか。 そんな事を考えているうちに談話室に到着するとソファに座らされる。 隣に隙間なく座ってきたフロイド先輩は、また纏わりつくようにスルリと私の身体に腕を伸ばした。 緩く抱き締められ、少しだけ身体を離すと、文字通り擦り寄ってくる。 「許さない」という言葉尻の強さと険を含んだ声色に対して、ひたすらに擦り寄ってくるという甘えているような行為になんだか拍子抜けしてしまった。 それでもフロイド先輩が擦り寄ったり、頭や背中を撫で付ける行為をやめようとはしない。 っ、フロイド先輩、くすぐったいです!止めてください... っ、」 「はぁ?何言ってんの、俺怒ってるんだけど。 小エビちゃんさ、俺のこと受け入れたんだよね?... 他の雄なんて放っておいて俺のことだけ見てろよ」 そう強い口調で言われ、今度こそ締められる!と身体を強張らせていてもフロイド先輩はひたすらに優しく、自身の頬や頭を私の肩口や腕に擦り付けてくるだけだった。 怒ってるって言ったのに。 ギュッと締められるか、あるいはガジガジと鋭い歯で噛まれるかと思ったのだが、そんな素ぶりは全く無い。 一瞬、これはフロイド先輩の振りをしたジェイド先輩なのでは?と頭に浮かんだが、どういう訳かその瞬間に「浮気すんなって言ってんじゃん」と声が降ってきたのでそれ以上考える事をやめた。 いつものフロイド先輩とは全く違った行動を受けて脳内で浮かんだのは、今日ジェイド先輩に言われた「求愛行動」という言葉だ。 目の前のガタイのいい男がひたすらに頭を擦り寄せる行為は、彼の本来の種族であるウツボとしての「求愛行動」なのだ。 そう思うとなんだか可愛い。 だが、この目の前の男がそれ程までに自分に執着しているという事実をありありと見せ付けられて、同時に胸がドキドキしてくる。 浮気なんてしてないです。 」 そう言ってフロイド先輩を見ても機嫌が悪そうに視線を返される。 何も答えないフロイド先輩は、今度は何も言わずに服越しに肩を甘噛みし始めた。 ああ、完全に機嫌損ねちゃったのかなと困ったようにフロイド先輩を見ていると、機嫌が悪そうながらも何となく必死にこちらの気を引こうとしているように見える。 フロイド先輩に、ちゃんと気持ちを返さなきゃなんて思ってしまう自分は、完全に彼に絆されてしまったのだろう。 こういう時どうするんだっけ、と思い返しながら今日ジェイド先輩に指示された事を思い出して、彼の頬や頭を撫で付けた。 なるべく優しく、今日気づいてしまった自分の気持ちを伝えるように。 私が身動いだのを感じてか、いつの間にかフロイド先輩は甘噛みも撫で付けもやめてジッと私の様子を窺っている。 緊張で手が少し震えるが、そっと彼を抱き寄せて幼い子をあやすように背中を撫でる。 フッと少しフロイド先輩が力を抜いた。 そして先程の彼がそうしたように、少し身体を離してそっと彼の頬に手を寄せた。 「あ、あの... その、さっきの発言に悪気はなくて... ごめんなさい、」 何と言っていいかわからず、言葉はしどろもどろになってしまう。 「わ、私、今日自分の気持ちに気付いたんですけど... その、フロイド先輩のことが好き、かもしれないです... 」 言い切る頃には、緊張と恥ずかしさが勝って俯いてしまった。 そんな私の頬にスルリとフロイド先輩の手が寄せられる。 「ねぇ小エビちゃん、顔上げて?」 酷く甘い声が、私の鼓膜を震わした。 甘くて優しい声なのに、逆らえない。 声の通りに顔をあげると、思ったよりも近くにフロイド先輩の整った顔があった。 驚いて距離を取ろうとしても、腰に回されたもう一方の腕がそれを許さなかった。 「もう一回言ってよ。 」 熱く熱を孕んだ、蕩けたような視線が私を捉える。 そっとまた耳元に唇が寄せられた。 「俺のこと、どう思ってんの?」 先程の甘い声より、もっと甘い声が私を捕らえていく。 捕まえて、離さない。 好き、です。 」 今度は、フロイド先輩の甘く蕩けた視線から目が離せなかった。 気付いた時にはそっと唇が寄せられていて、唇に熱を感じた瞬間に離れていく。 どちらからともなく唇寄せていた。 惹かれる相手への求愛行動は、人間もウツボの人魚も変わらない。 一瞬間を置いて、一気に顔に熱が集まった。 羞恥でフロイド先輩の顔が見れなくて俯こうとすると、阻止するように顎に手を添えられてクイッと先輩に向き直される。 熱を孕んだ視線はそのままに、機嫌の良い声で囁かれる。 「もう、そんな可愛いことしてどうしてくれんの?.. 浮気されんのは気分悪ぃけど、小エビちゃんがあんまり可愛い事言うから、仕方ねーから許してあげる」 そしてあろうことか、そのまま耳をべろりと舐め上げて甘噛みし始めたフロイド先輩に、私の羞恥は限界を超えた。 脳が考える事をやめて、意識が遠ざかっていく。 意識が黒で染められる前に聞こえたのは、フロイド先輩の声だった。 その声は優しくて、今まででは考えられないけれど、私を抱き寄せるその手もなんだか優しくて。 安心して身体を預けてしまうのだった。 「あーあ、落ちちゃったの?もっとこーいうに慣れないとだけど、今日はこれで許してあげる。 おやすみ、小エビちゃん」 ちなみにそのままフロイド先輩に抱き締められながら寝てしまった私が目覚めた時に真っ先に聞こえたのは、私を呼びにきたエースとデュース、そしてグリムの驚き叫ぶ声。 そして「... 何だようるせーなぁ」と不機嫌なフロイド先輩の声だったので、もう暫くタヌキ寝入りを続けることにしたのだった。

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