ともかく。 その牛は食みや失せぬらむ。 」と言ひけるときにぞ、隣の小童部、「御牛は、夜前しかしかの所きてこそ、狼の巡りありきしか。 」と言ひければ、 夜前…ゆうべ。 しかしか…(略する)こうこう。 うんぬん。 牛の主の来たれるを見て、その時になむ狼を放ちたりければ、狼は死にて、皆ひしげてなむありける。 臥す …うつむく。 隠れる。 ひしぐ…つぶれる。 ひしゃげる。 」と思ひけるに、「夜前、狼の来て食はむとしけるを、かく突き付けたりけるに、『放ちてば食はれなむず。 』と思ひて、 夜もすがら放たざりけるなりけり。 いみじ…優れている。 立派だ。 これは、まさしくそのほとりなる者の、聞き継ぎて、かく語り伝へたるとや。 然 れば…そうであるから。 だから。 魂…判断力。 適切な行動をとるための知恵。 語り伝へたるとや…語り伝えているとかいうことだ。 夕さり…夕方になると 小童部…(使われている)少年。 備わる。 」と思いて、狼に向かひて防ぎ巡りけるほどに、 かなしむ…可愛く思う。 突然だ。 はくと…ぱっと。 どっと。 」と思いけるにや、 力を発して、後ろ足を強く踏み張りて、強く突かへたりけるほどに、狼は、え堪えずして死にけり。 」とや思ひけむ、突かへながら、夜もすがら、秋の夜の長きになむ、踏み張りて立てりければ、子は、傍らに立ちてなむ泣きける。 夜もすがら…一晩中。 夜通し。 傍ら…物や人のそば。 …、京都内外の治安に当たった職。 清水…京都内にある。 京童部…血の気の多い、京の市中の若者たち。 いさかひ…けんか。 言い争い。 東のつま…東側の軒下。 あまた立ちて…何度も。 たびたび。 蔀…神殿造りなどで用いる建具。 柱の間に入れる戸。 風にしぶかれて…(蔀が)風に支えられて。 ゐる…すわる。 しゃがむ。 やをら… 静かに。 おもむろに。 あさましがる…驚きあきれはてる。 びっくりする。
次のともかく。 その牛は食みや失せぬらむ。 」と言ひけるときにぞ、隣の小童部、「御牛は、夜前しかしかの所きてこそ、狼の巡りありきしか。 」と言ひければ、 夜前…ゆうべ。 しかしか…(略する)こうこう。 うんぬん。 牛の主の来たれるを見て、その時になむ狼を放ちたりければ、狼は死にて、皆ひしげてなむありける。 臥す …うつむく。 隠れる。 ひしぐ…つぶれる。 ひしゃげる。 」と思ひけるに、「夜前、狼の来て食はむとしけるを、かく突き付けたりけるに、『放ちてば食はれなむず。 』と思ひて、 夜もすがら放たざりけるなりけり。 いみじ…優れている。 立派だ。 これは、まさしくそのほとりなる者の、聞き継ぎて、かく語り伝へたるとや。 然 れば…そうであるから。 だから。 魂…判断力。 適切な行動をとるための知恵。 語り伝へたるとや…語り伝えているとかいうことだ。 夕さり…夕方になると 小童部…(使われている)少年。 備わる。 」と思いて、狼に向かひて防ぎ巡りけるほどに、 かなしむ…可愛く思う。 突然だ。 はくと…ぱっと。 どっと。 」と思いけるにや、 力を発して、後ろ足を強く踏み張りて、強く突かへたりけるほどに、狼は、え堪えずして死にけり。 」とや思ひけむ、突かへながら、夜もすがら、秋の夜の長きになむ、踏み張りて立てりければ、子は、傍らに立ちてなむ泣きける。 夜もすがら…一晩中。 夜通し。 傍ら…物や人のそば。 …、京都内外の治安に当たった職。 清水…京都内にある。 京童部…血の気の多い、京の市中の若者たち。 いさかひ…けんか。 言い争い。 東のつま…東側の軒下。 あまた立ちて…何度も。 たびたび。 蔀…神殿造りなどで用いる建具。 柱の間に入れる戸。 風にしぶかれて…(蔀が)風に支えられて。 ゐる…すわる。 しゃがむ。 やをら… 静かに。 おもむろに。 あさましがる…驚きあきれはてる。 びっくりする。
次の保昌… 丹後…今の京都の北部 歌合…たちを分け勝負を決めた遊び 小式部内侍…和泉の娘、。 いかにも心もとなくおぼすらん。 」と言いて、局の前を過ぎられけるを、 定頼… 局…殿舎の中で、仕切りをして設けた部屋。 心もとなし… じれったい。 不安だ おぼす…「思う」の尊敬 たはぶる…ふざける。 からかう。 ひかふ…引き止める。 おさえる。 詠みかく…歌を詠み、相手に返歌を求める。 」とばかり言ひて、返歌にも及ばす、袖を引き放ちて、逃げられけり。 あさまし…驚き呆れる。 意外だ。 かかるやうやはある…こんなことがあってもよいものか。 うちまかせての…ありふれている。 理運…当然そうなるべき。
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