バーボン・ウイスキー
「クリス？」 「あぁ、カル…嬉しい！」 診察室から出てきた私を待っていたカルバドスに抱き付いた。 いつもなら真っ赤になりながらあたふたするカルバドスが強張った顔で「おめでとう」と返してくれる。 本当に嬉しい。 だけどあの方やラムには知られないようにしないといけない… 私はもしかしたらと言う可能性が出てきてから考えていたカルバドスに彼が私に抱いている恋心を知っていて秘密の共有を申し出る。 「カル、お願いがあるの」 「クリス？」 「私はこの子を産みたいの。 あの方達には知られずに…」 「だが…」 「ええ、産まれるまであの方達からの呼び出しを受けられない。 わかるわね」 「ああ」 「私が受けるのをやめた映画の仕事覚えてる？」 「盲目の母親が子育てするやつですか？」 そう、エージェントから 良い話だと言われ本を読んで心をひかれた作品だったけど子育てをする母親の役だと言うことで、失ってしまったあの子達の事を思い出してしまいそうで断っていた。 その役を受けることにし、クランクインまでの間役作りをしたい。 とあの方やラムに申し出た。 「あの件を思い出すからと避けようとしていたのだけど、この役が成功したら今まで以上に組織の為になると思うの」 「それもそうだな」 「お目付け役にカルバドスを借りても構わないかしら？」 「映画の完成を楽しみにしよう」 「ええ、その為に頑張るわ」 [newpage] 役作りと言う名目で組織と世間の目の届かない静かな田園地帯に来た私は簡単な変装を施しこの生活を満喫している。 「ねぇ、カル！今、この子動いたわ」 ゆったりとした白いマタニティドレスを着、カルバドスと腕を組み日課の散策をしていると最近僅かに感じられるようになった胎動を感じて歓喜の声を上げる私に 「少し座って休んだ方が良いんじゃないか？」 そういいながら持ってきていたピクニックバスケットからラグを出して木陰に広げるとゆっくり私を座らせた。 「ありがとうカル。 貴方が居なかったらこの子も無事じゃなかったと思うわ」 膨らんできたお腹を愛しそうに撫でながら感謝の言葉を歌に紡ぐ。 [newpage] 慈愛に満ちた聖母の様な微笑みを浮かべ大きくなってきたお腹を撫でるクリス。 「なぁクリス。 アイツには知らせなくてもいいのか？」 多分お腹の子の父親だと思われる別れの言葉もなしに消えたアイツだとクリスは何も言わないが俺は分かっていた。 「カル…」 「産んだあとの事もそろそろ考えてやらないと」 産むまでの安全は確保出来た。 だが、その後は？ ベルモットとして闇社会に身を置いているだけなら、産まれてくる子を隠す事も出来たかもしれない…だけどベルモットの表の顔のシャロン･ヴィンヤードは全米中に知れ渡っている。 パパラッチの目もいつまで欺けるか… 「私に育てるのは無理…知ってる？カル。 組織が人体実験をしていること」 「ああ…拐ったガキ達で何かをやっているのは知ってる」 「私もモルモットの一人よ。 そのモルモットが子供を産んだら組織はきっとこの子をモルモットにされる…だからお願い！彼を連れてきて！」 俺はベルモットには内緒で捜しだしていたヤツを迎えに行った。 出来るだけベルモットを一人にしないように車を飛ばして….
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